『The Dog, The General and The Birds 』フランシス・ニールセン監督インタビュー。
一目ぼれしたイラストに、シャガール風の色彩をつけて動かしてみたいという衝動にかられたんだ ( Francis Nielsen )
- トニーノ・グエッラの本のために描かれたセルゲイ・バルヒンのイラストに感動して、アニメ化を決意なさったそうですが…。
「うん。バルヒンの絵は物語とうまく調和していて魅力的だった。僕の大好きなシャガールの絵を思わせる雰囲気も合ったしね。そのイラストは白黒だったので、そこにもっと楽しい色彩を加えたいなあ~と僕は思った。バルヒンはボリショイの美術監督も務めた才能豊かな人物で、僕もじかに会って話したよ」
- シャガールの絵がお好きな理由は?
「偉大な画家はたくさんいるけれど…。シャガールの絵は、”動き”を感じさせるんだ。それが僕の好きなアニメの世界にもつながっている気がして、”動かしてみたい”という衝動を起こさせる。もちろん、ピカソやミロも好きだよ。他の画家の作品も…。だけどカンディンスキーの絵では、動かしてみようという衝動は起きないだろう?」
- バルヒンのイラストをアニメ化するにあたってのご苦労は?
「彼の独特の世界観をアニメでどう表現するか。白黒だったイラストに、シャガール風の色彩をどう与えるか。止まっていた絵が動く時に、どう光をあてるか、遠近感はどう出すか…。そういう演出にとても気を使ったよ。アニメを見る人に、犬や将軍が実在するように感じさせるために。そう、バルヒンの絵に色彩をつける許可を得るためにも、気を使ったなあ」
- 切り絵の手法を取り入れたそうですが。
「実際に切り絵を使ったわけではなく、切り絵の風合いを出したかったんだ。その風合いを出すために、実際の製作はコンピューターを使ったんだよ。まあ僕としては、コンピューターで作られた完全な世界を映像で表現したくはなかったんだけど…。不完全なままであえて置いておきたかった。そこに優しさや暖かさというものを残したかったんだ」
- わたしは将軍と犬が空を飛ぶシーンが特に好きですが、監督のお気に入りのシーンはどこですか?
「僕も、将軍と犬が空を飛ぶシーンは好きだね。すべてのシーンが僕の生んだ赤ん坊みたいなもので、好きなんだけれど…。特に、将軍がひとりぼっちのシーンがいい。犬を手ばなして、ひとりぼっちで雪の中をトボトボ歩きながら自問自答する老人…。『わたしは何が好きなんだ? チョコレートか?』って。老人の孤独がしみじみ伝わってきて好きだね。将軍が、犬に返事の仕方を教えるシーンも、微笑ましくていいなあ」
- 話は変わりますが、日本のアニメーションでお好きなものはありますか?
「『火垂るの墓』。『紅の豚』や『となりのトトロ』も好きだよ。夢を見させてくれると同時に、何かを考えさせてくれるからね。ふんだんにポエムがちりばめられているところもいい」
- 今後作ってみたい長編アニメは?
「エコロジーに関する作品。今、頭の中で構想を練っているところなんだ。この夏には、シナリオを書き始めようと思っている。また新しい映像の世界を探りたいね」
- 今、コンピューターグラフィックスがアニメの世界にどんどん入ってきています。さっき監督が言った”不完全さ”は、これからも作品の中で大事にしていくおつもりですか?
「もともと”完全なもの”を作るなんて不可能だけど…。不完全さの中に、生活や美しさがあると僕は思っているんだ。コンピューターは道具の1つでしかない。人間が頭の中で作ったものをコンピューターが再現するだけだ。美しさや感動は、不完全なところから生まれると思うよ」
- 最後に、これから作品を見る人にメッセージを!
「お気に召してもらえると光栄です。僕が映画を作る過程で感じた楽しさと同じものを、みなさんにも感じていただければ…」
(かきあげこ)