『リトル・エルサレム』ブリュノ・トデスキーニ:インタビュー。
『 愛する者よ、列車に乗れ 』『 ソン・フレール 兄との約束 』などに出演し、高い評価を得ている俳優ブリュノ・トデスキーニ( Bruno Todeschini )が、新作『 Petite Jerusalem (La) / リトル・エルサレム 』とともに、2年ぶりに横浜に戻ってきた。「大好きな日本の人や文化やと、直接触れ合うことのできるフランス映画祭が大好き」と話す彼は、昨年、パリで撮影された、諏訪敦彦監督の作品にも主演。そんな彼の映画に対する想いを聞いた。
Q:これまで、パトリス・シェロー( Patrice Chéreau )、ジャック・ドワイヨン( Jacques Doillon )、アルノー・デプレシャン( Arnaud Desplechin )、ジャック・リヴェット( Jacques Rivette )など、そうそうたる名監督と仕事をされてきましたが、今回組んだカリン・アルブー( Karin Albou )監督は、今回が長編デビューされた女性監督。何か新鮮なことはありましたか?
A:これまで、女性監督と10作ほど仕事をしてきましたので、特に問題はなかったですよ。感性もアプローチも異なりますが。
Q:日本でも出演作品が多く上映されています。数々のオファーがあるかと思うのですが、沢山の中から『リトル・エルサレム』への出演を決めた理由は?
A:ストーリーが凄く気に入りましたが、難しい宗教問題に挑んでいる点にも興味を惹かれました。世界には現在も宗教的な摩擦がありますが、そういった点についてもアプローチしていくカリン・アルブーの作品は、どの宗教がいいとか悪いとか、戒律が厳しいとか甘いといった視点ではなく、宗教を客観的に描いていると思います。
Q:敬虔なユダヤ教徒を演じていますが、もともとユダヤ教についての知識はあったのですか? それとも作品のために何か勉強したのでしょうか?
A:私はカトリックの家に生まれましたので、あまり知識はありませんでした。映画のためにはヘブライ語を学びましたが、作品に必要なら日本語を学ぶというのと同じことですね。発音のコーチがついてくれましたが、フランス語の翻訳もありましたので、きちんと理解しながら台詞を喋ることはできました。楽しい経験でしたよ。儀式なども行いましたが、教えてもらいながら、知識を深めていったという感じです
Q:演じた男性は、敬虔な信者でありながら、不倫もしてしまうという矛盾をはらんだ役でしたが、どのようにその役柄を分析し、役に挑んだのでしょう。
A:男性というものは矛盾を抱えたものなんです、生まれたときからね(笑)。この映画にはいくつか表現の扉があると思います。ひとつは、二人の姉妹の関係。そして、宗教の問題。宗教問題というと、セクシャリティの問題だけでなく、しがらみも含まれます。私が演じたアリエルという男は、40歳で男性ならではの問題にぶつかりました。欲望があって、その扉を思わず開いてしまう。それが、正統派ユダヤ教の人々にとってはあるまじき行為なわけですが、厳しい戒律の中で生まれるフラストレーションを感じているのです。どんなに信仰心が厚くても、男ならではの問題や欲望もある。それは信仰とは別問題なんです。男とは本当に弱い生き物ですね。
Q:現実のユダヤ教徒にとっては、かなり受け入れがたい部分もあるのではないかと思うのですが、映画を観た人々の反応はいかがですか?
A:カンヌ国際映画祭・国際批評家週間に出品されましたが、フランスでの公開は12月です。ですから、一般の反応はまだわかりません。正当な敬虔な信者にとってはかなりショッキングな内容なのは確かでしょうね。でも、ユダヤ教に限らず、いろいろな人はいるはず。先入観を持たずに観るならば、きっと観客は気に入ってくれると思います。イスラエルの映画祭で上映されたときは、あまり気に入られませんでしたが、きっと宗教的な問題が関わっているのだと個人的には思っています。
Q:ユダヤ教徒ではないからかもしれませんが、人間の真実が描かれていると感じました。監督は勇気がある方ですね。
A:私もそう思います。宗教的なことが関わってこなかったなら、監督はユダヤ人の役者を使ったかもしれません。私も、登場人物たちは非常に人間的ですし、男性の真実も描かれていると感じています。それに、行動に移さなくても、頭の中で不倫を犯すということはありますからね。
Q:最後に、主演のファニー・ヴァレット( Fanny Valette )さんとの共演の感想は?
A:とても若く、今後どんどん才能を開花させていくと思います。フォトジェニックですし。美しいですし。女優としても優秀。18歳と43歳ですから。年齢的には父親ぐらいですけどね(笑)。
(取材・文:牧口じゅん)