エレオノール・フォーシェ監督、ローラ・ネマルク、アリアンヌ・アスカリッド:インタビュー。
本年度カンヌ映画祭国際批評家週間に選出されグランプリを受賞した女性監督エレオノール・フォーシェ( Éléonore Faucher )の初長編監督作『Brodeuses / クレールの刺繍 』。17歳にして妊娠してしまった主人公の少女、匿名出産という親権を放棄する出産を選んだものの苦悩していた彼女が、息子を事故で亡くした刺繍職人のメリキアン夫人との交流によって、しっかりと自分の人生を決断するまでを描いた作品だ。監督のエレオノール、主演のローラ・ネマルク( Lola Naymark )、アリアンヌ・アスカリッド( Ariane Ascaride )の3人に作品についてきいてみよう。
- 作品のアイデアは?
エレオノール監督 まず、なにか時代遅れなものへの興味がありました。例えば洋服の世界。洋服に二度目の生を与えるような・・・。洋服の世界というのは女性のたちの世界。その中でベテランの人から若い職人へ技術が受け継がれていく、そういう世界にとても興味がありました。物語はその後で生まれたものです。
- 匿名出産のテーマはいつ生まれたものですか?
エレオノール監督 シナリオを書いた時、私には一歳の子供がいました。ですから当時母性について強い関心があったわけです。ただそれを表現する手段として映画を選びました。そして、女性の中では匿名出産をしているということも知っていました。そういう女性は強い女性。自分が育てることができないから親権を放棄しなけらばならない、そういう人たちにも興味を持ちました。彼女たちが集まるアソシエーションにも行って話しを聞いたりして勉強しました。
- ローラさん、妊婦を演じた感想は?
ローラ・ネマルク 妊娠した女性を演じるのは私自身も成長していくような感覚がありました。私が演じたクレールは成熟した女性だと思います。ですから匿名出産をするにしても子供に対して何かをしなければならないと考えていて、そのまま放り出すのではなく責任をもとうとしていた。
- お二人は刺繍を実際に習ったりしましたか?
アリアンヌ うふふ。ローラは実際に刺繍をしている方から教わってたけど私はどちらかというと、仕草だけで刺繍をするような手の動きを勉強しました。ですから実際には刺繍はしてないの。映画のマジックよね(笑)
- 洋服ではなくなぜ刺繍?
エレオノール監督 私はふだん見ることのできない芸術をみせたいと思いました。刺繍という芸術は完成しても、ひとつの衣装としかみられなくてあまり注目されていない。それはクラシックバレエをみても、練習がいかに大変かということまでは人々は見ていない。それと同じこと。私は映画の技術面でのスタッフ出身ですが、映画を観るときにも技術者がどんな仕事をしているかまでは見てもらえない。そういった意味で刺繍と映画は同じようなメタファーだと思いました。ナジャ(刺繍を作った人)と、どの刺繍を使うかということをよく相談しあいました。刺繍の作品を通して演じている人たちの顔が見えるシーンは、二人で考えたんです。
- だんだんと完成に近づいてゆく刺繍がローラと夫人との親密さに似ていますね。
エレオノール監督 まったくそのとおりです。刺繍というのはある意味ではその人がつけている日記のようなもの。ローラが夫人に自分の作品を見てもらうシーンは、日記をみてくれといっているような意味と同じです。
- 映画の中の二人の関係がせばまってゆくのと同時に撮影でも仲良しになりましたか?
アリアンヌ わたしはもう、ローラには我慢できませんでした(笑)私にとってはこの映画ではじめて主役を演じる若い女優との共演は重要なことでした。とてもシナリオが気に入ってとにかくいい映画にしたかった。私のもっているものすべてフォーシェ監督にあげたいと思いました。ローラは素晴らしい女優。繊細で感受性豊か。シナリオにあるとおり、私は常に彼女を見ていた。それが演技上の役割でもあるけど、彼女より女優としては経験があるので彼女がどのように演じているのかを気にかけてみていました。とにかく私はエレオノールとローラにもっているものすべてをあげたいと思いました。こんなに若くてかなりの完成度をもった女優にあるのは珍しいことです。
ローラ とても重要な役でしたからプレッシャーじゃないということはありません。でもアリアンヌはいつも必要なときにそばにいてくれて助言してくれました。本当に感謝しています。技術面だけでなく人間性や撮影中のこと、いろんな面で私をサポートしてくれました。