「そっちに行ってはいけない、でも、行ってしまう。イジルドにはそういう危うさがあるんだ」ブノワ・ジャコ監督、主演イジルド・ル・ベスコ:インタビュー。
ブノワ・ジャコ( Benoit Jacquot )の最新作『いつか会える 』は強盗殺人犯を愛してしまった少女の心の軌跡の物語だ。少女を演じるのは次世代スターのイジルド・ル・ベスコ( Isild Le Besco )。オヤ?と思ったのなら、さすがのフランス映画フリーク。02年の本映画祭で上映された「ロベルト・スッコ 」でもイジルドは連続殺人鬼の恋人を演じていたのだ。さて…。
――『~スッコ』に続き、殺人犯と恋に落ちますが…。
イジルド・ル・ベスコ でも、全くの偶然なの(笑)。こういう役が来るのはもしかして自由な人間のように思われてるからかもしれないけど。
ブノワ・ジャコ イジルドとの仕事はこれが3度目だし、この映画のアイディアも『~スッコ』の前からあったものなんだ。でも、監督にとってはそういう役柄において彼女のが欲しいと思わせる、何かがあるんじゃないかな。イジルドと最初に仕事をしたのは『発禁本 SADE 』だったけど、18世紀のコスチューム映画だったのに関わらず、その要素はすでにあった。要素というのは関わってはいけない世界に関わってしまいそうな、そういう危うさだ。
――出演を決めたのは?
イジルド・ル・ベスコ 『いつか会える』は殺人犯とのラブストーリーでもあるけれど、もっと大切なのは女性の生き方に焦点が当てられていたこと。医者の娘でいいとこのお嬢さんという運命に彼女は満足していないの。その運命から飛び出していきたいと思っていた。彼女の身にああしたことが起こるのは偶然ではなく、むしろ、その変化を強く望んでいたからなの。
――この話は実話だそうですが。
ブノワ・ジャコ フランスでも決して有名な事件ではないけれど、ある日、ここで描かれる女性がテレビに出ていて、自分の体験を話していたんだ。指名手配中の恋人と逃亡中にはぐれ、そして、彼女はインディアナ諸島へと旅立つ。その話に何か感じいるものがあって、これを映画化したいと思ったんだ。
――モノクロで撮影したのは?
ブノワ・ジャコ 70年代という時代設定にはそれが一番適切だと考えたからだ。白黒映画を見ると人はなんとなし昔の映画、それもそう遠くない昔だと感じるものだと思う。もうひとつの理由は技術的な問題だった。この映画は絵画に対するデッサンのようなもの。日本的にいうなら、墨で書いた作品って感じではないかな。
――なるほど。イジルドさんに聞きます。演技する上で留意した点は?
イジルド・ル・ベスコ うーん。どちらかというと流れに身を任せて演技するタイプだと思うの。人物の行動パターンを分析したり、言葉で説明してもらったりとかはしないから。
――昨年は女優業だけでなく、長編映画も撮ったとか。
イジルド・ル・ベスコ ちょっと変わった映画(笑)。日本の観客はそういう映画でも受け入れる度量があるからきっと気に入ってくれると思うわ。ともあれ、自分が女優であることがこの映画にはプラスになった。役者との接し方も自然に出来たしね。
――フランス映画祭横浜にぜひ出品して欲しいですね。一方、ブノワ・ジャコ監督は既に本映画祭の常連です。映画祭に何かメッセージを。
ブノワ・ジャコ そうだね(笑)、本当に。この映画祭は僕にとっても他の監督にとっても重要なイベントだと思う。作家が自分の作品を直接紹介できるチャンスってそうそうないからね。日本とフランスは地理的には遠い国だけれど、映画やアート、文化面ではどんどん近くなってきていると思う。僕らフランス人は日本人がフランスのものを好きだってよくわかっている。それはすごく嬉しいことだよ。
僕は映画をよく撮る方の監督なんだけど(笑)、新作を撮るたびにここに持って来たいと思っている。これは本当にそう思っているんだ。
(取材・記事構成 M・T)