「久しぶりにコメディをやりたかった!」『お先にどうぞ』ピエール・サルヴァド-リ監督&マリリン・カント:インタビュー。
フレンチ・コメディを生み出すことに定評のあるピエール・サルヴァド-リ( Pierre Salvadori )監督。前作『 Les Marchands de sable (砂の売人)』で新たな可能性を見せたが、最新作『 Apres vous / お先にどうぞ』では、またコミカルなストーリーが展開されている。
自殺しようとしていた男ルイを助け、仕事や恋まで面倒をみることになってしまったお人好な男アントワーヌ。その同棲相手クリスティーヌを演じているマリリン・カント( Marilyne Canto )さんとサルヴァド-リ監督にインタビュー!!
――まず、この映画を作るきっかけとなったことを教えてください。
監督:とにかく、久しぶりにコメディをやりたかったんだ。前作は暗いストーリーだったからね。人々に活力を取り戻させるような、あるいは与えられるような映画を作りたいと思ったんだよ。
――コメディが人に元気を与えると?
監督:そうだね。それに、コメディはたいてい挑戦を描いていて、活発な登場人物が良くないものを改善していく戦いでもある。チャップリンも、社会から外れた感じを描いていただろう?そうやってコメディの中にも人の成長を表現して、観る側の心に訴えかえていくんだ」
――ではマリリンさん、監督はどんな方ですか?
マリリン:フランスでは、ドタバタコメディの監督は珍しいの。すばらしいと思うわ。彼の映画の中の役は、体当たりで演じることが出来るのよ。軽妙なタッチと真剣さのバランスがとてもいいと思う」
――マリリンさんを起用したのはなぜでしょう?
マリリン:それは私も知りたいわ(笑)
監督:彼女の今までの選択を評価しているからだよ。役者というものは、それまで演じてきた役を全て背負っているんだ。それに彼女は役に自然に入り込むことが出来る。その映画や演じる人物に現実味を与えられるんだ」
――クリスティーヌを演じてみていかがでしたか?
マリリン:私と似ているところは、人を深く愛するところ。それに、嘘が嫌いで嘘をつけないところね。
――アントワーヌの恋人役でしたが、マリリンさん自身はアントワーヌとルイのどちらがお好きですか?
マリリン:ええ?(笑)
監督:どっち?(笑)
マリリン:うーん、アントワーヌはある種のカリスマ性をもっているし、ルイはとてもロマンチックだし…二人を足して2で割った感じがいいんじゃないかしら?
――撮影中のエピソードを何か教えてください。
監督:実は3日間、カメラが壊れていることに気づかないまま使っていたことがあったんだ。たぶん落とした衝撃が原因だと思う。確認したら、真っ暗な画面しか撮れていなかったんだ。
――3日間も!?それを取り戻すには、かなり大変だったのでは?
監督:うん。しかもロケ地がブルターニュの方で、パリに戻ってから失敗に気づいたんだ。だからまたブルターニュへ行ったよ。
――ちなみに、どのシーンなのでしょう?
監督:ルイのおばあちゃんの家に行くシーンだよ。
――あ!これですね?笑わせて頂きました。(そのシーンが載せられているパンフレットのページを見せる)
マリリン:(笑)
監督:コメディ映画を作るのは、とても神経を使うよ。現実と全く離れたものではだめで、ちょっとしたもの・ありえるものを映し出すことが大事なんだ。それと現実とのほんの少しのギャップが必要になるんだよ。だから前作のようにシリアスなものよりも、この映画の方がずっと大変だった。些細な部分まで編集して一年間もかかってしまったよ。ルイがソムリエの試験を受けるシーンなんかも苦労したな」
――では最後に。タイトルは、なぜ『Après vous(お先にどうぞ)』とつけたのですか?
監督:まず、ありふれたものにしたくなかったんだ。スタッフからは、『サービス料込み』なんていうアイディアもあったけれど、この映画は思いやり・礼儀・謙虚さなど“譲り合い”を勉強していく内容だから、これに決めたんだ。無償で人のために何かをするということの大切さを学んで欲しい。
二人は、まだ日本に着いて数時間しか経っていないという身体的に辛い状況ながら、丁寧に質問に答えてくださった。
『 Wild side / ワイルド・サイド 』のセバスチャン・リフシッツ( Sébastien Lifshitz )監督が「ピエールの作品は、宙に浮いたようなストーリー」と言うように、詩的な雰囲気を醸し出している『Après vous(お先にどうぞ)』。ぜひ、ご覧になってみてください。今後も、サルヴァド-リ監督の作品からは目が離せません!
(村松美和)