「初監督のセシルとは私の持っている経験も分かち合えたし、共鳴しあっていたの」愛についてのレクチャーも飛び出した!『35歳とサムシング』主演アンヌ・パリロー:インタビュー。
30代の未婚・既婚女性たちが直面する理想と現実の壁を、3人の主人公たちのめった斬り本音トークでポップに描いた女性監督セシル・テレルマン( Cécile Telerman )の初監督作品『 Tout pour plaire / 35歳とサムシング 』。仕事はできるが男にふられ、預金の残高もピンチなジュリエット、ラブラブだが画家として活動もなく収入ゼロの夫をもつマリー、いやみな上司に翻弄されても愚痴も聞いてくれない夫との関係に疑問を感じているフローレンス。なかでもフローレンス役を演じたアンヌ・パリロー( Anne Parillaud )は『ニキータ/ ニキータ 』や『イノセント・ブラッド』といったこれまで演じてきた代表作とはまったく異なる、はじめての「切実な現実に生きるごく普通の女性」を演じ、女優として更に幅を広げた作品であると言える。
- 舞台挨拶でもお話していましたが、アンヌさんはすごく日本がお好きだそうですね
「日本が好きだし、東京が好き。とても近代的で活力に満ちていて人々の欲望も溢れている。これから未来をつくっていく、という感じがしますよね。作りもパースペクティブで、大きなメトロポリスという感じがいい。大きなビルや建物をつきぬけて高速道路や電車が走っている。建物の様式もさまざまだし、本当にあらゆるものが混ざっている。ここにはすべてのものがあるし、エレガントなものもあればエレガントでないもの、見苦しいものもある(笑)。それに人々がとても若い。創造性もあるし、ヨーロッパ人にとって芸術的なインスピレーションをうける国だと思います。」
- フランスから多くの映画人と共に異国である日本の横浜に滞在するこの映画祭は、ゲストにとってはどんな映画祭ですか?
「出会いの場でもあるし、同じパリで交流するのとも全く違いますよね。遠くにいるからこそ時間を上手に使えると思います。」
- これまでに色んな監督とお仕事をされてきたアンヌさんから見て、今回初監督となったセシル・テレルマンはどんな監督でしたか?
「処女作を作るというのは、そうでない監督の作品とは大きく違います。監督にとってすべてが初めてで、その初めてであるということからくるひとつの魔法のようなものがあると思います。何も知らない、はじめて、ということはとても美しいこと。知らないことをだんだん発見していくことですし、はじめてのことを学んでいくのははたから見ていてとても心温まるものです。その中で、私の経験を分かち合うこともできたのが大きな喜びでしたし、彼女がこの一本目の作品で何をつくりたいのか、そういうメッセージがはっきりとしていたので、非合理的だったり妥協というものとは無縁で、賢く寛大なので他の人からのアイデアなど役に立つものがあればとにかく取り込んでいくという感じでした。彼女とは本当に分かち合って共同作業をしたという実感があります。また、彼女は非常に女性的な部分が強い人で、3人の女性の人生を描きながらもそのなかに彼女自身が女として経験したものが入っているので、作品をとおして彼女を見ることができると思います。」
- 今回演じたフローレンスは今までのどの役ともガラリと変わる新境地とも呼べる役柄ですね
「この人物というのは、現実の社会の中にいてそこで生きている役柄ですが、私がこれまでに演じてきた役柄はとても現実離れしていたり社会から疎外されていた存在が多かった。罪人とか性格が極端だったりとかね(笑)。だからこういった普通の生活をしている役だったので、演じるにあたってテレルマン監督とは徹底的に話し合ってこの人物を理解しようとしました。なかなか具体的なイメージがわかなくて、私のまわりにも彼女と近い人物もいなかった。今までまったく演じたことのない役だったからすごく興味があったし、楽しみながら演じることができました。
- 今までに演じてこなかったタイプのこの役をどのように自分のものにしていったのですか?
「セシルがずいぶん助けてくれたのが大きかった。彼女と私との間での共鳴が演じる助けになりました。今まで演じてきた役は大部分が二重性をもっていて、とても弱く、絶望していたりということが多かった。それと同時にとても強かったり、暴力的だったり、独立していた。今回演じたフロランスはそれとまったく逆で、生活の中で夫に服従している。だけどある瞬間からそれが抵抗に変わっていきます。私にとってこの服従と反抗というのは近いテーマにあると思っているので、この二つのテーマは状況ごとに変わるのではなく同時に存在することができるものだと思うんです。その二重性をこれまでの役になぞらえて、フロランスという人物を演じる手助けとしました。
- 3人の女優の共演が見どころのひとつでもありますが、実際の現場の雰囲気はどうでしたか?
「とてもよい関係で撮影は進みました。撮影に入るまで一緒に仕事をしたことがなかったんですけど、それぞれ演じた役同様に3人とも性格がまったく違っていたけどとても気が合いました。セシルは自分のことを「監督とはオーケストラの指揮のようなもの」といっていたけど、私たちが仕事をしやすいようにうまくまとめてくれていたと思いますね。セシル自身監督一作目だったのでこの作品への意気込みはすごく強かったので、私たちも一本目の作品で忘れがたい経験を監督にさせてあげたいという気持ちは3人とも一緒でした。3人の関係は映画の中と同じように。強い絆であったり、とても楽しい間柄であったり、いい友達になることができました。疑問やアイデアがそこから生まれた場合はみんなで話し合いました。」
- この作品では恋愛ひいては結婚、男女関係の複雑怪奇さがこれでもかというくらいに描かれて今すね。フロランスの夫も浮気をしておきながら、彼女が去ってしまう泣いてとりすがる。このような愛の複雑さをどう思いますか?
「愛は大きく二つに分けられると思います。ひとつは絶対的なもの、もうひとつは情熱であり、冒険であり、性的なものであったり、ほとんどの恋愛がこっちに分類されます。「絶対的な愛」でない場合、二人が出会ってからはさまざまな出来事が起こります。たぶん世の中には運命の人が1人だけいると思いますが、その人に出会うこともあるし出会えない人もいる。絶対的な愛はお互いが100%ですが、そうでない愛は60%だったり70%だったりするのでその足りない部分のパーセンテージが不一致を起こして、別れてしまったり、浮気をしてしまったりということが起こります。愛というのは素晴らしいものだと一口に言えるとは思いませんし、「絶対的な愛」は神様が与えてくれるものなので簡単なことではありません。ただ、「その他の愛」でもそれはいけないことではないし、ワクワクさせてくれたり、何かを学ばせてくれるのかもしれないし、絶対的な愛にたどりついたときにこれだ!とわかるための経験かもしれません。」
- ラストシーンが印象的でしたがアンヌさんのお気に入りのシーンは?
「ベッドで夫とセックスをしながら自分の昇進記念パーティーのメニューのことを考えているところですね(笑)。あの場面が夫婦の冷え切った関係を一番端的に表している場面だと思います。」
(取材・文:綿野かおり)