出演した2作品『髭を剃る男』『The beat that my heart skipped』が上映された個性派女優エマニュエル・ドゥヴォス!:インタビュー。
現在、フランスの気鋭監督がこぞって起用したがる女優エマニュエル・ドゥヴォス( Emmanuelle Devos )。その演技力には定評があり、ジャック・オーディアール( Jacques Audiard )監督の前作『Sur mes lèvres / リード・マイ・リップス』で、セザール賞主演女優賞を見事に獲得した個性派だ。
Q=今回の上映作『La Moustache / 髭を剃る男』のエマニュエル・カレール( Emmanuel Carrère )監督の来日が急遽キャンセルされてしまい残念ですね。
A=監督の身内に不幸があったんです。私も一緒に来日できなくて残念に思いますが、仕方ありませんよね。
Q=『髭を剃る男』はエマニュエル・カレール監督の長編フィクション第1作目にあたりますが、彼は小説家としても知られています。ドゥヴォスさんは、彼の原作の映画化作品『 L' Adversaire / 見えない嘘 』に出演し、セザール賞助演女優賞候補になりましたね。では『髭を剃る男』に出演するに至った経緯を教えて下さいますか?
A=エマニュエル・カレールには今回初めてお会いしたんですが、まずシナリオの話をしました。依頼されたのは主人公の妻役なのですが、カレール監督は、この役がどのような役になるか、率直に言って監督自身にも分からないとのことでした(笑)。彼自身が書いた原作があるにはあるのですが、原作には妻のことはあまり書かれておらず、情報も限られていたからです。主演のヴァンサン・ランドン( Vincent Lindon )とカメラテストをしたのですが、夫婦としてマッチするかどうかが重視されました。テストの結果の首尾は上々で、まるで10年前からの夫婦ように見えたそうです。監督は俳優を探しているというよりも1組の夫婦を探していたんですね。ヴァンサン・ランドンと共演するのは初めてでしたが、お互いに演じやすかったですね。
Q=原作とシナリオは、かなり違っていましたか?
A=ラストが大きく変わっていましたね。原作の方は流血シーンが多く、状況があまりにも判らなくなった主人公は最後に自殺してしまうんです。バスルームで静脈を切って。映画の方はラストも違いますが、色々なモノが凝縮された感じになっていますね。
Q=とても不条理な物語ですが、演じていて混乱したりしませんでしたか?
A=これは何が本当で、何が嘘か判らなくなってしまう物語です。なので、撮影するシーンの度に、ヴァンサン・ランドンと私は、一緒になって監督を問いただしていました。このシーンは現実にあった事なの、なかった事なのって(笑)。どういう状況下にあるシーンなのか正確に知りたかったからです。でも「それは分からない。それは作品にとって重要なことではない」というのが監督の返答でした。監督が目指していたのは、映画を観た観客がまるで洗濯の脱水機の中に放り込まれたかのように、何が何だか分からない状態にすることだったそうです。なので、俳優陣が混乱していたことが逆に作品にイイ影響を与えたんではないかと思っています(笑)。
Q=今回の映画祭上映作であるジャック・オーディアール監督の『 De battre mon coeur s'est arrete / 真夜中のピアニスト 』にも小さな役で出演なさってますね。
A=この作品のシナリオはずいぶん前に読んでいました。オーディアール監督は、君のための役はないけれど意見を聞きたいからと言い、渡されたんです。もちろん読後には私のコメントも伝えました。それが撮影の1ヶ月前になって、監督のアシスタントから連絡が入ったんです。クリス役の女優が見つからないんだけど、監督は君にやって欲しいんだと思うよって(笑)。でもクリスは、私とは全く正反対のキャラクターで、普通なら私には話のこない役柄なんです。髪はブロンド、化粧が濃くって、巨乳というね(笑)。でも私はオーディアール監督が大好きですし、全幅の信頼を寄せていますので、引き受けました。彼のためなら何をやっても良いと思っていますから。エキストラ出演でも全く構いませんね。
Q=貴女にとって演じることの魅力は何ですか?
A=自分の人生とは異なる人生を生きられるってことですね。完成した作品をスクリーンで観ることには喜びを感じません。喜びを感じるのは撮影している、まさにその時なんです。ある舞台演出家から、俳優が演じるのは、自分が誰だか解らないから演じるんだと聞いたことがありますが、そうなのかも知れませんね。
(KIKKA)