南仏サン・ジャン・リヴィエルにある俳優養老院、そこではかつての日のはなやかな舞台をただ一つの誇りとして、いま多くの俳優たちが余生を送っている。カブリサードは代役専門の役者だったが、主役のギトリーが健康だったため一度も舞台をふんだことがなかった。しかし、彼は自分の勝手に過去を創造しほらばかりふいている。マルニーは古典劇屈指の名優とうたわれていたが、愛人を同僚サンクレーに奪われて以来、俳優としての自信を失いここに隠退したのである。マルニーはその正直な性格の故にカブリサードを俳優として認めないために、両者の間に時折り小さな争いがあったが、ある日ここへ突然尾羽うち枯らしたサンクレールが現れるまでは、院内は平和な空気にみちていた。マルニーは恋人がサンクレールの許に走って間もなく変死したので、その死因を疑い、サンクレールにはげしい憎しみを抱いていた。サンクレールはいつも婦人の渇仰の的となっていると人から思われていたい性格の男で、養老院へきても早速近くのカフェーで働く娘ジャネットに眼をつけた。以前から経営難であった養老院は、いまでは万策つきいよいよ解散する破目になった。このとき院主の尽力でパリの新聞社が義えん金をだし、現役の名優たちによる慈善興行を行いこれを救うことになった。ところが公演の当夜、主役俳優が不意に事故のため出場できなくなったので一同はマルニーに代役をたのむことにした。カブリサードは生がいの思い出に、最初にして最後の舞台を踏みたいと決心しマルニーにたのむが許されない。彼は暴力でマルニーを倒し舞台に出たがかなしいかな一言のせりふもしゃべれなかった。大切な一幕をめちゃめちゃにして自分の部屋へかえった彼はその場に倒れてしまった。その夜サンクレールは純情のジャネットを自殺させようとしたが最後にマルニーに気付かれ、ジャネットは死の一歩前で救われた。数日後カブリサードの葬儀には、遺言により生前彼自身が書いた弔辞をマルニーが読むことになったが、生真面目な彼にはカブリサードを一世の名優としてほめたたえた弔辞を読むことができず、いくたびかためらったのち、弔辞を捨てて自分の思うままを述べた。「彼は俳優としてはとるに足らぬ男だ。しかし友人としては実にいい男だった。友よ安らかにねむれ」と。
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