クレール最初のトーキーで、その音の使用には目をみはる(?)ものがある(鉄道のガード下の決闘などその効果を最大限に発揮)人情喜劇だ。そして素晴らしいセット(パリの実景は一つも出てこない)。リアルだが、おとぎ話の中の町のように親しみやすい“どこにもない”場所で展開される、男女の素朴な物語……。有名な主題歌はタイトルでは流れず、まず題名通り、雨で濡れるパリの屋根屋根を捉えたカメラが、路地で雨宿りをする若者アルベールとルイを映し出す。その二人の間をレインコートの娘ポーラが通り抜ける暗示的な開幕。彼女を見る二人の視線の交わしようで彼らの関係が如実に分かる。舗道の向かい側で娘を野次る与太者フレドを見せ、さっと最初のシークェンスで主要な登場人物を出し、台詞らしい言葉は喋らせないのは、クレールがトーキーの真意をよく理解している証拠だ。さて、翌日。屋根から降りたカメラが街角の人だかりを捉え、次第に歌声も届く。例のシャンソンが演歌師のアルベールによって披露されているのだ。ポーラの姿もそこにあった。その夜、悪漢フレドに部屋の鍵を奪われたポーラは、夜更けの街で再会したアルベールの部屋に転がり込む。こうして二人は一緒に暮らすようになったが、トラブルに巻き込まれたアルベールは逮捕されてしまう。そしてポーラは、彼が留置所で過ごすうちに、親友ルイと恋に落ちてしまった……。
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