さて『Nada』は1974年の作品で、駐仏アメリカ大使を誘拐した右翼テロ組織「ナーダ」と、警察の非情な追撃を描いたポリティカル・スリラー。原作 はロマン・ノワールの代表格、J=P・マンシェットの『地下組織ナーダ』。ハヤカワポケミスで邦訳が出ていましたが、今は絶版。
あらすじ
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About
『肉屋』や『破局』といった作品で漲っていたシャブロル特有の“悪意”は、この映画でも健在。特に、手柄を立てるためには手段を選ばない警部ゴエモン(本当にこういう名前)のキャラクターが最高です。彼自身、犯罪者たちを人間とも思っていないロクデナシなので、その対立劇には単純な善悪観など存在しません。演じるミシェル・オーモンの孤立した中間職っぽさがまた絶妙(笑)。犯人達のアジトに突入するクライマックスも、単に「虐殺」以外の何ものでもなく、シャブロルの非情な視線が冴え渡っています。
逆に、テロリストたちの方はといえば、常に内部崩壊の危機をはらんだ脆弱な連帯として描かれます。その名が“Nada”(=Nothing)というのは分かり易すぎるネーミング。リーダー役ファビオ・テスティを筆頭に、メンバーがルー・カステルやマリアンジェラ・メラートといった顔ぶれなので、もう破綻は約束されたようなもの。途中で組織を抜けたがために警部に利用される気弱な教師を、シャブロル作品常連のミシェル・デュショーソワが演じていて、いい味だしてます。
葛藤を抱えたテロリスト集団に、その皆殺しをもくろむ悪辣な警察。シャブロルはもちろん、実際に政治運動家でもあったマンシェットさえも、心から描きたかったのは政治的主張より“人道から外れた者たち同士の繰り広げる対立”でしょう。物語の結末で描かれるのは、主人公が政治的意図とは関係なく「落とし前」をつける姿であり、まさにここで観客は溜飲を下げます。
そうした精神的にフリーキーな対立構図は、当時のロマン・ノワール作家たちが好んで描いています。マンシェットの『狼が来た、城へ逃げろ』など、わりと戯画的でファンタジックな感覚の作品が多い中、題材のアクチュアリティとスキャンダラスな設定を持った『地下組織ナーダ』を原作に選んだのは、シャブロルの計算高いところかもしれません。
高級娼館での大使誘拐シーンのサスペンス、テロリストたちの微妙な人間関係のタペストリー、田舎を舞台にした警察との攻防など、シンプルな語り口で小気味よく描いていく巧さは、さすがシャブロル。疑心と悪意と暴力に満ちた、紛うかたなきシャブロル作品でありながら、骨太のエンターテインメントとしても成立しています。
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