「あのレストランそのものが社会の隠喩なんです」 短編映画『 La Bourde / しくじり 』監督マチュー・ドゥミ インタビュー。
ある高級レストランにやって来た風変わりなお客。適当に対応するスタッフだが、そのお客がお店の運命を左右する批評家なのではと知ると、店をあげてやり過ぎともいえる接客をし始める…。ミュージカルあり、シュールな展開ありのドタバタ・コメディを手掛けたのは、アニエス・ヴァルダ( Agnès Varda )とジャック・ドゥミ( Jacques Demy )の息子であるマチュー・ドゥミ( Mathieu Demy )。俳優としても活動してる彼は、30年ぶりに復活した『ロバと王女 /ロバと王女 』のデジタル修復にも参加している。
――フランス映画祭は2回目だそうですが、印象は変わりませんか?
「そうですね。とても感じのいい映画祭です。それに日本の観客のみなさんに作品を観てもらうということで、また違った見方を発見できるのことが楽しみです。違う文化的コンテキストから捕らることができるのは素晴らしいですから」
――作品のアイデアは?
「友人に大変な美食家がいまして、有名なレストランに連れて行ってもらったんです。僕はこういった店に入るのが初めてで、2つ驚いたことがありました。1 つはいい意味で、全てに手をかけて、洗練されたスゴイ料理がでてきたこと。もう1つはマイナスの意味で、なんてここは閉鎖的な世界なんだろうと。全てがきっかりとコード化されている感じだった。そこに僕は贅沢さを追求している、喜劇的なバカバカしさを感じたんですね。こういったお店は全ての人に開かれているわけではなく、金持ちだけを相手にしている。そういう世界で仰々しくやっているという雰囲気でした。それを感じとった時、これを題材にコメディをしようとしました。何もかもだいなしにしてしまう人物を中心に据えて、作品を構想していきました」
―― 登場したレストランは、実際のお店で撮影を?
「あれは本物でなくてセットです。できるだけ高級なレストランだと一目で解って、なおかつ笑い飛ばせるようにセットを組んでいます。レストランの経営側がいかにも高級そうなフリをして気取っている所があるというのをはっきり打ち出したかった。あと、レストランそのものが生きている社会の隠喩にもなっているということです。高級レストランというのが社会の中でのガチガチに決められた守るべきコードを象徴している。ですからなんでもキチキチと守らなければいけないコードの中で繰り広げられているのが、この『しくじり』の世界なんです。そして、その中で上手く生きていけない不適応者がいるわけで、そういうマージナルな人々も描きたかったわけです」
―― お店に障子があったり、ソムリエが提灯を持っていたり日本風の小道具が登場していますね。
「これはわざとそういう要素を入れています。今、フランスの高級レストランですごく流行っているのが一種のジャポニズムというもので、内装にちょっとした日本的な味を取り付けるんです。つまり、非常に純化した、余分なものを取り払った上でのエレガンスというものの表現です。現代的な料理を出しながら、日本の伝統的な建物に見られる特徴的な純粋さをインテリアで表現する、これが今の高級店の傾向なんです」
―― 『ロバと王女』にも監修として参加されています。修復は大変だったのでは?
「仕事を終わってみて、とても嬉しかったですね。長いこと上映されていなかった作品が、やっと皆さんに見てもらえるので。オリジナルのネガがとても痛んでいたので、1コマ1コマ修復していったのはとても大変な作業になりました。また映像だけではなく、現代のお客さんに自然な感じで音声を聞いてもらうためにはステレオにしなければならなかったので、こちらも大変でした」
―― そんな『ロバと王女』のどこに注目してほしいですか?
「これはジャック・ドゥミの世界を構成している作品です。シャンソンあり、ユーモアありの世界を存分に楽しめると思います。僕としては、リラの精が素晴らしい(笑)!個人的に大好きなので、注目して欲しいですね」
―― 最後に、監督として次回作にやりたいことは?
「ブラックコメディなど、滑稽と現実を融合させている作品を撮っていきたいですね。僕は監督としては初心者なので、自分なりのスタイルを模索しているところです。誰かに似ているというのではなく、自分のスタイルを確立したいと思っています」
ftp/ japon
(取材・記事:yamamoto)