『リトル・エルサレム』カリン・アルブー監督&主演ファニー・ヴァレット:インタビュー。
ユダヤ教の厳しい戒律の中で生きる二人の女性の姿を通し、繊細な女性の心理を描き出す『 Petite Jerusalem (La) / リトル・エルサレム 』。この作品の脚本家であり、監督でもあるカリン・アルブー( Karin Albou )と、主演のファニー・ヴァレット( Fanny Valette )に、作品について語ってもらった。
Q:初来日の感想は?
ヴァレット:実は、昨日到着したので、ほとんど日本を見ていません。ただ、私は、『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィア・コッポラ監督と親しくしているので、彼女からよく話を聞いていましたから、喜び勇んで来たんですよ
(笑)
A:監督に。このテーマを選んだ理由を教えてください。
監督:まず、思春期を迎える若い女性たちのポートレートを描きたい、それを表現したいという情熱があったからです。哲学とか宗教を平行して描くこと自体面白いことなのですが、情熱とか愛情を拒絶して、その二つに逃げ込む、そんな女性たちの姿を描きたかったんです。ユダヤ教は戒律をとても重んじる宗教で、哲学にも非常に強い思想。どちらも、感情や情熱を隠して逃げ込むには便利な場所と言えます。ローラという役には、私のかつての姿を投影しました。私も愛情、欲求に対しては受身で、守りの姿勢をとっていましたから、男性から声をかけられたり、愛について考えると非常に恐怖を感じ、みんなから馬鹿にされていましたから(笑)。
Q:監督へ。ご自分を投影させたローラ役のキャスティングには、慎重になると思いますが、ヴァレットさんを起用した決め手はどこにあったんでしょう。
監督:彼女が私の想像していた女性そのものだったということが一番です。決定する前には、何人かの候補者と会いましたが、いろいろな意味で彼女が一番役に合っていました。当時、彼女は17歳と半年でしたが、その後、バカロレアを無事に取ったんです。賢くて、美しく、彫りの深や肌の色まで考えていた通りの女性でした。
Q:ヴァレットさんへ。出演した理由は?
ヴァレット:こんな素晴らしいシナリオをいただき、主役までいただけるというのですから、いったい誰が断ることができるでしょうか(笑)。
Q:作品も、俳優たちも素晴らしいですが、この作品に出演したことで学んだことはありますか?
ヴァレット:宗教の問題ですね。これまでユダヤ教については知りませんでした。監督が本を一冊貸してくれて、それを読むように言われましたが、それとは別に、ユダヤ教の中で生きている女性の心理を詳しく教えてくれました。ユダヤの特殊なコミュニティの中でどういう生活をしているのか、どういう感情を持ちながら生きているのかを、彼女が詳しく説明してくれたので、多くを学ぶことができました。また、カリンは、私がローラを演じる上で、不必要な部分を全部消してくれ、“あなた自身の中にあるものだけで、ローラを演じてごらんなさい”と言ってくれたので、自分の中にあるものを追求することも学びました。
Q:二人の間で、役作りに関して具体的にどのようなやり取りがあったんですか?
監督:二人で、シナリオを分解するという作業をしました。シーンごとに細かく、感情表現の仕方について話し合いました。この場面でどうしてこういう行動をおこすのか、どうしてこうしないのかということを話し合い、すべての行為の中にある意図をはっきりさせていきました。男性について、愛についての理想などに
ついても同じことです。撮影前はもちろん、撮影ごとに、そんな作業を繰り返しました。ファニー自身、本能的に役を感じるという、持って生まれた資質がありましたので、とても上手くいきました。
Q:ヴァレットさんは、役に共感できる部分がありましたか?
ヴァレット:役柄は大好きですし、共感する部分は多かったですが、ローラは私自身とは非常に異なりますね。だからこそ、役作りは楽しいものでした。自分を越え、ユダヤの世界に足を踏み入れたので、ゼロから新しいものを作っていけたので、それが面白かったですね。そして、そんな機会を18歳でいただけたのは幸運だったと思います。
監督:ローラは厳格なユダヤの宗教的な世界に住んでいますから、服装も地味です。でも、もうおわかりのように、彼女自身は非常に現代的。そんな彼女が、質素な、おしゃれにも気を使わない女性を演じ、徐々にですが短期間で女を開花させていく役を見事に演じきってくれました。
Q:監督へ。母親がローラに“恋をしないで人生で何をしようというの”と言ったセリフが印象的だったんですが、そこにはどんな想いを込めましたか?
監督:ローラは、とにかく若く、感受性が強い。哲学を追求したり、宗教に興味を持つことで、恋という激しい感情、情熱から逃げようとしているのです。彼女にとって、愛や恋はできれば関わりたくない恐怖の対象。あまり会話のない家族ですが、それを感じた母親が娘を勇気付けたくて、あえて語りかけたのです。ローラは、好きな人ができても、驚きや戸惑いの連続。最終的には自分を解き放ち、彼の愛を受け入れますが、その過程で重要なメッセージとなるのです。
Q:監督へ。ローラと姉マティルドという対照的な姉妹の姿が印象に残ります。二人の対比にはどのような意図があるのですか?
監督:ここで描いたのは、父親のいない家庭です。しかも、母親はチュニジアから来ていて自信がなく、家族を引っ張っていくつもりもない。ですから、姉が家族をまとめる責任を追っていて、彼女はユダヤ教の厳格な教えに頼ることで家族を大切にしようとしています。一方、ローラはそんな責任もなく自由に生きている。ただここでは、セクシャリティについてとか、女はこうあるべきとか、問題提起をして答えはこうであると述べたかったのではなく、二人の女性が違った形で開花させていく姿を見せたかった。姉は、宗教の伝統の中で、しかも戒律を守りながら、自由なんだけれどもユダヤの社会とフレキシブルに関わりながら女として生きる道を選びます。ローラはもっと革新的に自由を求めていく。最終的には、戒律を破りながらも自由を手にしていくわけです。二人の違った、女性性を開花させていくアプローチを描いていているのです。