フランスでセンセーショナルな話題を呼んだ小説を映画化した『HELL_私の名はヘル』の監督ブリュノ・シッシュ:インタビュー
2001年に長編デビュー作『バルニーのちょっとした心配事/ Barnie et ses petites contrariétés/バルニーのちょっとした心配事 』がフランス映画祭で上映されたブリュノ・シッシュ( Bruno Chiche )監督が、ロリータ・ピーユの原作小説を映画化した最新監督作『 Hell / Hell 私の名前はヘル 』を携えて再び来日!!
Q=前作と今回の監督作の間に俳優デビューなさったとか。どんな作品に出演したのですか?
A=アレクサンドラ・ルクレール( Alexandra Leclère )という女性監督の「 仮題:仲違いする姉妹 」。ある日、僕とエージェントが一緒にいた時に偶然、キャスティングに悩んでいた監督と出会ったんだ。彼女は色んな俳優に会ったもののイメージに合う俳優が全くいなかったらしい。で、僕がピッタリだと口説かれて出演することになったんだけど、何とイザベル・ユペール( Isabelle Huppert )とカトリーヌ・フロ( Catherine Frot )という二大女優との共演でね。撮影の間中ず~と緊張しっぱなしだったよ(笑)。だってさ、僕が演じたのはユペールの愛人役なんだ。緊張しまくるのも当然だろう。幸いにも彼女と寝るシーンはなかったんだけどさ(笑)。
Q=今回の『HELL_私の名はヘル』は日本でも雑誌に連載され、単行本化もされた衝撃的な小説の映画化ですが、監督することになった経緯は?
A=居場所を見つけられない若者たち、彼らが愛を見いだすことの難しさを描きたいなって、以前から思っていて題材を探していたんだ。今までにもバンリュー物という、パリ近郊の荒れた若者たちを題材にした作品は何本かあったけど、普通に描いた作品はなかったからね。そんな時、この本を映画化したがっていたプロデューサーに紹介されてね、原作を読んだのさ。自分が求めていた題材だったし、ヒロインの置かれている特殊な社会的階層にも興味を覚えたので監督することにしたんだよ。
Q=小説は一人称で書かれ、映画の核となるヘルとアンドレアの恋愛も小説では1章分しかないそうですね。映画化にあたり原作者と共同で脚色を行っていますが、どのようにシナリオ化していったのですか?
A=小説と映画は全くの別物になったよ。僕の映画は“恋愛”が主題になっているんだ。ヘルとアンドレアの恋愛を通して社会背景を描きたかったからね。原作者のロリータ・ピーユもそれに賛同してくれたので、共同で脚色することにした。まず原作ではアンドレアは特定された人物ではなく、単なるプレイボーイのイヤミな奴として描かれている。だけど映画では、弱い面をもつ人間的な男にした。ヘルも原作ではスゴク横柄で、ただ突っ走っていく性格なんだが、このままじゃ観客の共感を得られないので、脆さのある少女にした。裕福な家庭の娘で、お金で買える物は全て持っているが、愛には恵まれていない娘にね。親子関係も重要視した点で、映画では“親の不在”を大きくクローズアップしているんだ。
Q=サラ・フォレスティエ( Sara Forestier )とニコラ・ドゥヴォシェル( Nicolas Duvauchelle )を起用した理由は?
A=サラは単に美しいのではなく、力強く純粋で透明感がある。ニコラも力強いんだけど脆さも見える。二人がともに持つ強さとあやうさの“ズレ”に惹かれたんだ。原作のヘルのキャラクターは絵に描いたような“マヌカン(ファッションモデル)”タイプ、アンドレアの方はモナコの王女を彷彿とさせる放蕩児で、人物に全く陰影がないんだ。サラとニコラが演じれば、ヘルとアンドレアが血を通った人物になると確信したよ。
Q=若い俳優への演出はどのように?
A=俳優は自分が演じる人物の演出家でもあるので、彼らの意見は非常に重要だと思う。彼らは自分の役を理解するのに、まず自分で料理して披露してくれるわけだ。彼らには俳優としての鋭い本能があるからね。なので、まず思い通りに演じてもらってから演出を施していった。彼らの言い分にも耳を傾けるようにしながらね。
Q=演出で難しかったシーンは?
A=ヘルとニコラがアルコールを競って飲むシーン。実にくだらない馬鹿げた競争なんだが、やってる本人たちは真剣だ。二人の俳優にその状況と人物の心理状態を理解して演じてもらわなければならなかった。ヘルとニコラの苦しみと痛みをね。
French Film Festival in Japan - 2006 / 日本
(KIKKA)