仏・大御所の歌手ダニが答える『オーケストラ・シート』インタビュー。
悩める舞台女優に孤独なピアニスト、大切なコレクションを売り払おうとしている画商、パリに着いたばかりの天真爛漫なウェイトレス、まもなく辞職する劇場の管理人。ダニエル・トンプソン( Danièle Thompson )監督『 モンテーニュ通りのカフェ 』は観客にエネルギーをくれる群像劇である。管理人を演じたダニ( Dani )はフランスでは有名な歌手。「監督のダニエル・トンプソンと仕事をしてみたかった」という彼女、煙草をくゆらせつつ、お腹に響くようなハスキーボイスで答えてくれた。
――出演までの経緯を。
ダニエル・トンプソン監督が最初に考えた役が私の演じたクロードだったらしいわ。クロードはさまざまな登場人物の私生活を知っている。大女優の愚痴も聞くし、ピアニストの悩みも、パリに来たばかりのウェイトレスの話も聞く。クロードと自分に近い点があるとすればーー私は歌手だからーーいろんな人の気持ちを代弁して歌うでしょ、他の人の気持ちに入りやすいっていうのがあるのかもしれない。私はね、あまり映画には出ないのよ。やっぱり歌手でいることが好きだから。だけど、この本はよくできていたし、何よりダニエル・トンプソンと一緒に仕事をしたかったの。
――クロードは口パクでよく歌を歌ってますね。あの選曲は?
私とダニエルが考えたの。一緒にたくさんの曲を聴いて、歌詞を読んでそれぞれの場面にぴったりの曲を選んだわ。ジュリエット・グレコにシャルル・アズナブールに・・・劇中では口パクだけど、現場では自分で歌ったわ。というのか、常に歌ってるのね、私って。
――観ていて楽しくなる映画ですが、現場でも?
その通りね。いい現場だったわ。すべてはダニエル・トンプソンの人柄だと思う。彼女の優しいまなざしを受けて俳優たちも互いにライバル視することなく、すごくいい関係を保てた。実はキャストやスタッフとは今でもよく飲みに行くのよ。
――昨夜、舞台挨拶で「劇中の誰と飲みたいですか」という質問が出ましたが、その質問がいたく気に入ったようでしたね。
この映画は登場人物全員が一緒に飲んでみたくなるような、興味深い人たちなのよね。
たとえば、ジェシカはパリに来たばかりだから「こういうことに気をつけなさい」とか教えてあげたいし、画商のクランベールとは骨董品の話で盛り上がれそうだし、ピアニストとは私自身がミュージシャンだから分かり合える部分が多そうだし…。
――この映画を観てるとパリに行きたくなります。ことにパリのカフェに。東京にもパリ風のカフェはあるんですけど、何かが違うんですよね。
東京の街はきれいね。タバコの吸殻も落としちゃいけないみたいだし。地下鉄の中もパリとは大違い。残念なことに喫煙スペースが少ないのよね。もうかれこれ5時間も吸ってなくて・・・だから、たまらず今吸ってるけど、ごめんなさいね。
――いえ、どうぞ吸ってください。ところで、劇中には若い頃のあなたの写真が出てきます。あまりに可愛くてドキドキしてしまったのですが、あれは幾つで何をしていた時?
・・・・・・(笑)。たぶん、25歳くらい。あの頃も今と同じで歌ってたはず。今の私は60歳になった。でもね、年齢を隠そうと思ったことはまったくないのよ。
――映画出演作は少ないと言いましたが、トリュフォー( François Truffaut )やクロード・シャブロル( Claude Chabrol )など素晴らしい監督と仕事をしてきてますよね。何か出演の基準のようなものが?
こういうストーリーを撮りたいという明確なビジョンがある人とは仕事をしたいわね。普段から映画を観る方でもないし、自分の出た映画も一回観て、その後観直すことなんてないの。なんていうのか、こう、(恥ずかしくて)もういいでしょ!って感じで(笑)。だけど、撮影の、どの現場もみんな思い出深いものになってるわ。