『誘拐者』アントワーヌ・サンタナ監督インタビュー。
ブノワ・ジャコ( Benoit Jacquot )の助監督を経て01年に長編監督デビュー。『 De Profundis 』は第一作目に続き、イジルド・ル・ベスコ( Isild Le Besco )を主演に起用、19世紀を舞台にしたサスペンスタッチの人間ドラマだ。キーワードは閉鎖的なブルジョワ社会、乳母、立場の違う母親の子どもへの愛情。アントワーヌ・サンタナ( Antoine Santana )監督は何より女を描いている。
――劇中には2人の母親が登場します。生活のために我が子を田舎に置いて別の子供の乳母として働く母、その乳母に我が子をまかせたブルジョワ階級の母。
最初に断っておきたいのは、僕にとって母性と母親の愛情とは別物だということ。19世紀まで子供の世話はもっと内にこもったもので、ブルジョワ階級の親たちは子供を田舎の乳母に預けていた。ちょうどこの映画の舞台となった19世紀後半、住み込みの乳母を雇い自宅で育児をするっていう状況に変わって行ったんだ。2人の女主人公は身分も違うし、共通点といえば子供がいるだけ。この社会的な違いから2人がどのように子に愛情を注ぐのか興味が湧いた。だけど、2 人の母親のどちらが正しいのか、ジャッジはしたくなかった。
――赤ちゃんの撮影は大変だったのでは?
実は12人いる。生後3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月と成長の三過程で12人の赤ちゃんを使ってるんだ。赤ちゃんにも待ち時間があったりしてね、他の俳優と同じように扱ったよ。とはいえ、そうはうまくいかないよね(笑)。彼らのリアクションにこっちがびっくりしっぱなしだった。リハーサルは赤ちゃんなしでやったんだけど、それだけに本番でイジルドと赤ちゃんの関係性を作るのには苦労したよ。辛抱強く動物ものを撮るようにカメラを回したんだ。ちなみにエンドクレジットには「この映画ではどの赤ちゃんもひどい扱いをしていません」と加えた。アメリカ映画なんかでよくあるじゃない、「動物にひどい扱いをしていません」って(笑)。
――テーマとはまた違うかもしれませんが、全編に渡ってエロティックな雰囲気が漂っています。この意図というのは?
それは嬉しいね(笑)。僕は男だし、自分が女性を撮るとなるとどうしてもそうなるのかもしれないけど。撮っている間はその女優に心を奪われてしまうんだ。フランス語でエロティックっていうのは2つの意味があって、ひとつは文字通り、エロいってことだけどもう一つは女性、または男性としての魅力があるってことなんだよね。僕としては後者のつもりで撮ったんだけど。話は変わるけれど、今村昌平の「赤い橋の下のぬるい水」がすごく好きでね。あの映画のヒロインも女性の持つ繊細さとエロスが混在してたよね。
――ちなみに他に好きな日本の監督は?
ミゾグチ。これは日本で、っていうんじゃなくて最も尊敬する監督だね。ミゾグチの描く女性像はエロティックそのものだと思う。あと、去年、まだ若い監督だと思うんだけど…『好きだ、』っていう日本映画をモントリオールの映画祭で見たよ。これもすごく良かった。
――石川寛監督、宮崎あおい主演の作品ですね。日本でも現在、公開中です。ところで、今回初来日だそうですね。行きたいところ、お土産に買いたいもの、何かありますか?
銀座の伊東屋に行ってきれいな和紙を買ったよ。友達にプレゼントするのと、自分で何かを書く分とね。あとは夕べ、浅草寺に行った。素晴らしいね。東京ってものすごくテンションの高い場所があるかと思えば、自分を見つめることのできる場所もちゃんと用意されている。築地にも行ったんだけどあの雑踏のなかで小さな神社を見つけた。そこに入った途端、雑音は消え、別世界に入ったよ。
French Film Festival in Japan - 2006 / 日本
(取材・文 寺島万里子)