去る9月、『モンドヴィーノ 誰かに話したくなる、ワインの話。』の監督ジョナサン・ノシターがキャンペーンのため来日。来日中もずっと和食を楽しんだという監督の、映画とこれまでのユニークなキャリアに関するインタビュー。
Q.この作品を作ったきっかけは?
この15年間、「ワインに関する映画を」というオファーを断り続けてきました。ワインの回りのスノッブな世界を描いても退屈だと思い、興味がありませんでした。しかし、ワインは人々の出会いの場を作り、互いの理解を深めるものだとわかった時に、それを映画にしたら面白いかもしれないと思うようになりました。この映画でモンティーユ家の人々と知り合い、葛藤や意見の違いをカメラの前でも隠さず見せてくれた時に、人間のいろいろな側面が描けるとも思いました。2000年の3月から撮り始めたのですが、アイデアはそこから膨らんでいきました。映画の撮影は恋に落ちるようなものですね。計算できないですから。
Q.ワインとの出会いについて教えてください。
父がジャーナリストだった関係で、60年代、12歳のころからパリに住んでおり、当時はワインはスノッブなものではなく、生活の一部でした。15歳の時、レストランの給仕をはじめて、ワインがその値段に関わらず、人々に多くの喜びを与えているのを見ました。25歳でソムリエの資格を取ってからは、いろいろなレストランでワインリスト作ったりもしました。
Q.NYで働き始めたのは?
25歳か26歳の時です。その前にロンドン、パリ、サンフランシスコ、ワシントンなどで働いていました。NYのレストランは都会的で洗練されていました。ロンドンは当時からコスモポリタン的で、いろんな国のワインを揃えていました。かつてはそうでしたが、20年前状況が一変してしまいました。アメリカのワインの生産量が増えてバランスが崩れてしまったのです。NYのワイン市場でカリフォルニアワインが、重要な位置を占めるようになりました。それは本来あるべき位置ではないので、完全に味が均一化され、価格はとても高く、謙虚さを失ってしまったのです。
Q.ワインのグローバル化への疑問から、この作品を撮ったのですか?
いいえ、ワインは夢と喜びの表現であり、人間ドラマです。生きる喜び、狂気、人間模様、生活の方法。シュールですばらしい人々の人生に入ってみたいというのが出発点です。まるでフィクションを撮っている気分でした。登場人物たちの生き方が想像を超えていたからです。4年の撮影を続けられたのは、彼らの持つエネルギーのおかげです。
Q.日本の印象は?
来日できて嬉しいです。自分の土地だけでなく、他の土地の地味も大事にする伝統を持っている国だと思います。東急デパートのワインのセレクトは地味を大事にしていて素晴らしかったです。ベルリンやシカゴなどではああいった小さな生産者を重視したセレクトは見ることはできません。おまけに値段もリーズナブルで、一種のショックを受けました。
ワインには4~5000年前からの文化が込められています。ヨーロッパの文化にとって重要なものです。昨日国立博物館へ行きましたが、ワインもアートと同様に保存していくべきものです。ワインストアも一種のミュージアムですね。
Q.日本のワインは飲みましたか?
赤ワインのクォリティに驚きました。調和もとれていて、味のグローバリゼーションも感じませんでした。
Q.日本の観客に見所を。
登場人物のテイスティングをしたような気持ちになると思います。共感した人のワインを是非飲んでみて下さい。人間とワイン、両方を紹介した作品です。ワインは造った人を反映しており、一体のものなのです。映画を見ながらワインの味は味わえないけれど、ワインのテイスティングに行くより安いはずですよ。