あらすじ
物語も,父を亡くした気の毒な娘が,放蕩な叔父の虐待から逃げ出して放浪したのち,文字通り白馬の王子さまに救われるといったオトギ話のようなもの。
ただ,冒頭の並木道の木漏れ日のなかを艀(はしけ)が川を滑っていく描写とか,艀の上を人が移動するモーションリズムなどに,ルノワール流の詩的なきらめきが感じられます。
クレジット
監督 (1)
俳優 (7)
映画製作・配給会社 (3)
クレジットタイトル詳細 (4)
- シナリオライター : Pierre Lestringuez
- Directors of Photography : Jean Bachelet, Alphonse Gibory
- 監督補佐 : Pierre Champagne
- プロデューサー : Jean Renoir
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技術面詳細
- タイプ : 長編映画
- ジャンル : フィクション
- サブジャンル : ドラマ
- 言語 : サイレント
- その他の国の共同制作者 : フランス (100.0%)
- Original French-language productions : 不明
ニュース&アワード
About
『水の娘』はジャン・ルノワールの処女監督作で,当時,彼の妻だったアンドレ=マドレーヌ・ユシュラン(デデ)を女優として売り出すために撮られた作品。
このころの映画の製作費は,彼の父で,かの絵画史上の巨匠オーギュスト・ルノワールの遺産を取り崩してのもだったとか。
デデは父オーギュストの絵のモデルだった人で,女優としてはカトリーヌ・ヘスリング(エスラン)という芸名で,サイレント期のジャンの作品に何本か主演しています。
この処女作では,まだのちのルノワール的な奔放で即興的な感覚描写は目立たず,当時のハリウッドのサイレント作品,例えばD.W.グリフィスがリリアン・ギッシュで撮ったような作品に近い感じですね。
物語も,父を亡くした気の毒な娘が,放蕩な叔父の虐待から逃げ出して放浪したのち,文字通り白馬の王子さまに救われるといったオトギ話のようなもの。
ただ,冒頭の並木道の木漏れ日のなかを艀(はしけ)が川を滑っていく描写とか,艀の上を人が移動するモーションリズムなどに,ルノワール流の詩的なきらめきが感じられます。
艀つながりで,ちょっとジャン・ヴィゴの『アタラント号』(1934年)を思い出してしまいました。『アタラント号』がパリの街中の猥雑な感覚を活かしたのに対して,本作はあくまでも美しい自然描写に彩られた透き通るような映像が特徴ですね。
ほかにも,腹を空かせた娘が,富農の息子がおいて行った食べ物を,高い樹のえだに腰かけて食べるシーンなどに,ルノワールらしい映像感覚が顔を見せます。
そして,見どころは映画の中盤,森の中で冷たい夜雨に打たれ熱にうなされた娘から,魂が抜け出てさまよう幻想シーン。スローモーションや多重露光などトリック撮影を駆使し,シュールな感覚で目を惹きました。
この辺は,当時フランスで流行したアヴァンギャルド映画の影響があったようです。数年後の『のらくら兵』(1928年)からトーキー以後のルノワール作品では見られない貴重なシーンですね。
それにしても,カトリーヌ・ヘスリングのメイクが,いくらサイレント期とはいえ,ベタベタな白塗りに絵を描いたみたいで,彼女だけ他の役者から浮き上がっていて,なぜこんなメイクにしたのだろうという感じ・・
娘が叔父に強姦されそうになるシーンや,彼女が身を寄せたジプシーの馬車を農民たちが焼き討ちにするシーンでは,サイレント的な速いカットバックで,この娘のクロースアップをこれでもかと見せるのですが・・
白塗りに黒々とアイラインを引いた顔に,欧米人特有の瞳が白く光るような感じが奇怪で,どこかドイツ表現主義映画のような印象。時代性を感じてしまいました。
1924年といえば日本では大正の末。未だ映画の黎明期にあって,同時代のさまざまな要素を盛り込んだ,巨匠ジャン・ルノワールの処女監督フィルム。貴重なものを観ることができて,まずは良い週末でありました。
Source : Jouvet.cocolog-nifty.com