彼女……バカンスの中に気だるく眠るパリ。一九六六年の八月のパリは、バリケードも、投石も、火焔瓶もまだ知らず、やがてくる激動をそのまま負に裏返した ように、人気もない、奇妙な静寂の中にいた。このたゆとう眠りの中でいま動いているのは、新首都圏拡張整備計画にもとずく公団住宅地帯の建設を進行する、 ブルドーザーの音だけだ。低く聞えてくるゴダールのコメンタリーをぬってジュリエット(M・ヴラディ)の生活が示される。彼女はパリ郊外の公団住宅に住む 人妻。夫のロベール(R・モンソレ)はガソリン・スタンドに勤め、月給は八万そこそこ。子供は二人、息子のクリストフ(C・ブルセイユ)と娘のソランジュ (M・ブルセイユ)の幼ない兄妹。夫のロベールは無線好きで、今朝も友人のロジェ(J・ナルボニ)と一緒に、無線の受信に夢中になっていた。ジュリエット は売春をしている。昼間、ジェラール氏(J・ジェラール)のいる売春宿に出かけ、そこを託児所がわりに子供を預け、買物に歩いたり、行きつけのキャフェで 男を探したりする彼女。若い男(Y・ブネイトン)を安ホテルへつれこみ、一仕事をする彼女。その後で、ヴォグという店で、気に入ったワンピースを買い、美 容院に出かける彼女。その美容院に勤めるマリアンヌ(A・デュペレイ)に、ちょうどその時、アメリカ人(R・レヴィ)から電話が入り、遊びにいこうと誘わ れる。マリアンヌと出かけることにしたジュリエットは、夫を近くのキャフェに待たせる手筈をととのえて、アメリカ人のいるホテルへ。パリには、ベトナム帰 りの米兵やジャーナリストが大勢いて、彼等はジュリエットが想像もしないような大金を彼女たちに払う。ジュリエットとマリアンヌは、頭にトランス・ワール ド・アメリカ航空とパン・アメリカンの航空バッグをそれぞれかぶり、室内を歩きまわる。その間、ロベールはキャフェで隣のテーブルに座りあわせた女の子と セックス談義。また、近くのテーブルでは、女学生(B・ジャンソン)と作家(J・P・ラヴァルヌ)が、盛んに社会問題などについて論議中。やがてジュリ エットとロベールは、そろってアパートに帰還。夜、子供をねかしつけた二人は、ベッドに入る。そして、二人は口論をくりかえしながら、読書をつづけてい る。静かに、ゴダールの声でナレーションかかぶる。「……私はゼロの地点までもどった。そこから出発するべきなのだ。」
Source : movie.goo.ne.jp