「チャイナタウン」の後、スキャンダルに疲れ再びフランスへ戻ったポランスキーが自作自演で描く異常心理サスペンスの佳作で、日本では劇場未公開のままビデオのみの封切りとなった。
古びたアパートに空き部屋を見つけたトレルコフスキー(R・ポランスキー)は、前の住人が窓から飛び降り自殺を図った事を聞かされる。彼はその女性-シ モーヌを病院に見舞い、そこで彼女の友人と名乗るステラ(I・アジャーニ)と知り合う。やがてシモーヌは死に、その部屋に越してくるトレルコフスキー。部 屋にはまだシモーヌの痕跡がそこかしこに見られ、壁に開いた穴の中には彼女のものと思われる一本の前歯が隠されていた。そして、向いの窓には奇妙な人物の 佇む姿もあった。不安な中で始まる新生活。わずかな物音でも隣人から苦情が発せられ、口うるさい家主(M・ダグラス)と無愛想な女管理人(S・ウィンター ス)もトレルコフスキーにとって脅威となっていく。やがてタバコや飲み物といったトレルコフスキー自身の嗜好も変化し、彼は周囲の人々によって自分がシ モーヌに変えられていく事を感じ始めていた。被害妄想は次第に膨れ上がり、ある夜、その妄想は現実と化す……。
ストーリーだけを追うと混乱を招 きかねない作品だが、随所に挿入される悪夢的なシーンと、全体に散りばめられたキーワードがその行間を埋めており、観ている間終始つきまとう不安感は次第 に心地よいものとなっていく。“主演”のポランスキーはまさにハマリ役、脇を固める演技陣も充実しており見応えは充分。S・ニクヴィストによる冷ややかな 映像も重要なファクターだ。
Source : allcinema.net